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蝉論争 [せ]

 松尾芭蕉が山形県の山寺で詠んだ「しずけさや 岩にしみいる 蝉の声」の蝉の種類をめぐって、齊藤茂吉と小宮豊隆の間で昭和初期に起こされた論争。
  「閑けさや」の言葉から、少なからず一般が「一匹の蜩」であるかの印象を持っていた。
 なるほど、林の奥から響き渡るヒキヒキの声には趣がある。朝晩にそろそろ秋を感じる風が吹くころという印象だが、生態学的には矛盾しない。また、俳諧に静寂を求める日本人の文化心理として分からないでもない。
 ところが、そのところに齊藤茂吉が「これは油蝉であるに違いない」と論じて一石を投じた。
 対して東北帝国大学の教授で夏目漱石の弟子だった小宮豊隆が、「それもまた否である。ニーニー蝉である」と反論した。油蝉のほうがいかにも暑い盛りのイメージだが、山形で生まれ育ち、歌人として芭蕉に特別の思いを寄せていた茂吉は「油蝉」にこだわり、また別の方面から「春蝉」説が示され、旧来の「蜩」説が再燃するなど、〔蝉〕の一語をめぐって句界が騒然とした。ややあって小宮が、「新暦7月上旬に、山形では油蝉は出現しない。もっぱらニーニー蝉である」と、科学的根拠をもって論証したため、この論争は決着を見た。
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